現在「やわらかスピリッツ」にて、佐久間結衣氏による漫画版が連載中の『初恋』。窪田正孝を主演に、内野聖陽、大森南朋、染谷将太、小西桜子、ベッキーといった錚々たるキャストで彩った映画がいよいよ全国公開!
 カンヌ国際映画祭監督週間選出、トロント国際映画祭正式招待、オースティンファンタスティック映画祭正式招待、サン・セバスティアン国際映画祭正式招待、ロッテルダム国際映画祭正式招待、全米先行公開――「これぞ、世界のミイケ」と各国で熱いスタンディングオベーションを浴びた本作がついに満を持して凱旋する。
 人生“初”のラブストーリーを手がけた三池監督に、新境地を切り拓いた本作について創作秘話を伺うべく――…漫画家・佐久間結衣氏と共にスピリッツ編集部が直撃インタビューを敢行!
―――映画『初恋』。レオとモニカという若い二人の恋を中心に、新宿歌舞伎町に生きるアウトローたちが絡んだ濃密な一夜を描いた、とても疾走感のあるジェットコースタームービーでした。またも凄まじい作品を世に送り出された三池監督ですが、本作が生まれたきっかけはどのようなものだったんでしょうか? 三池 今どき、映画も“広く共感してもらう”というのがテーマになっていて、要はソフトなんですよね。主人公の思いがすごく理解できて、その言葉に共感して、なおかつ見ている人がそれを確認しに行っているようなものが今の映画だと思うんですよ。
 悲しいラブストーリーを観ても笑いながら「泣けたよね」とか話して、シネコンから外に出た瞬間に「自分とは全然関係ない」みたいな、ライトな感じを求められている。そして我々としては、製作費を回収できればいいよねって。でもそれも“運がよければ”。今は、それも大変なんですけどね。その最低限の条件を満たしつつだけど、あとはあまり観客を意識せずに自分のやりたいようにやる…そういうことが、今の日本映画の世界ではほとんどないんです。
 でも今回、東映さんから、「昔のような映画を作りましょう」とお声がけいただいて。それは、『孤狼の血』という一風変わったハードなやヤクザ物がそれなりの成績をおさめたことが背景にあって。“それなり”というのは、僕らの業界でいうと“世の中から見て”というよりも「今どき、この映画はこれぐらいだよね」というラインを上回ったという。
―――『初恋』もラブストーリーを主軸に置きつつ、ヤクザたちが縦横無尽に暴れ回る気持ちよさやハードボイルドさがありました。  昨今、どうしても映画でアウトローたちを描くと夢がないんですよね。「どうやって生き残るか」ってことばかりで、「そんなつもりでヤクザになったんじゃない」…みたいな、ある意味で僕らとすごい似ている境遇だと思っていて。彼らが抱えているフラストレーションというのは、ひょっとしたらみんなと共通するところがあるのかもしれない。コンプライアンスに縛られていたり、何かをやってしまったら大変なことになる…そんな社会の息苦しさというのを最も感じているという二人が、レオとモニカなんですよね。 ―――窪田正孝さん演じる主人公のレオについて、監督の中ではどういうキャラクターとして存在していますか?  彼は、生まれたときから邪魔な存在として親に捨てられて、ずっと施設で育って。いわゆる『タイガーマスク』の世界なんですよね。そして、ボクサーとしての才能はすごくあるんだけど、日本タイトルまでは行くようなやつではない。センスは光っているけれども、そんな大ヒーローになっていくわけではないっていう。ボクシングも始めたのがきっと高校生くらいだったんでしょうね。高校は通信なのか働きながら通って、自分のサンドバッグでバンバンやっていたくらい。外で絡まれたりしたときにまあまあ強い。それで、自分に突っかかってくるやつを倒すのは、自分の拳だけしかないと思ったんでしょう。 ―――彼はどこでボクシングと出会ったんでしょうか?  子供の頃から、テレビで辰吉(丈一郎)とかを観て「すげえな」って思っていたのかも。レオにとって、ある種のヒーローのように見えたかもしれないですね。リングの上では、何者であるか関係ないですから。殴り合ってどっちが強いか、それだけで上に行ける。 施設でも友達もあんまりいなくて、自分から心を開いたりもしなかったのかな。一人でボクシングやって、でも特に「チャンピオンになりたい」みたいな”夢”はない。ただ、リングの上で相手を倒すことだけが目的で、将来がどうっていうことも考えてなかったんでしょうね。それが、病気だって宣告されて―― ―――その直後、レオは小西桜子さん演じるモニカと出会いますね。そしてヤクザたちによる事件に巻き込まれていきますね。  二人を事件に巻き込んでいったアウトローたちのうち、誰か一人でも欠けたら違う行動になって、レオとモニカはそもそもあそこですれ違わなかった。しかも、もしあの時に死の病気だって言われてなかったら、レオはそのまま何もせずに立ち去ったんじゃないかな。ということは宣告をした医者も含め、どんな人間も、誰かの出会いとか誰かの運命を変えているっていうことだと思うんですよね。どうせ僕ら人間は大した人生を送るわけじゃないし、ろくなものじゃないんだけれども、それでも「それでいいんじゃない」という。何かを果たせなくても、必ず何かに影響を及ぼして、その影響がもし悪い方向に転んだとしても、その中に必ず小さな花が咲く。それで十分じゃないのという思いが根底にあるんですよね、どんな作品をやっていても。 ――レオとモニカの運命を動かすことになったアウトロー達……内野聖陽さん演じる権藤、大森南朋さん演じる大伴、染谷将太さん演じる加瀬、ベッキーさん演じるジュリ、…ほかにも魅力的な登場人物がたくさん出てきますが、それぞれのキャラクターは監督の中でどんな存在ですか?  ジュリはもう、とにかくヤスに惚れていてね。特別な理由はなくても、純粋に惚れていたんだと思います。彼女があんなに強いのは、格闘技をやっていたのかもしれないし、愛ゆえの恨みであんだけの力が出たのかもしれないし。権藤は、出所してくるけど存在が既に伝説になっている男。そして組のためにというよりも、個人的にマフィアと闘っている。「どっちが強いか」っていう子供じみた勝負で、彼がやっているのはリングの上でのボクサーの試合に近いんです。加瀬と大伴は色々(問題を)起こしていくけど、特に何かすごい理由があって不正をしているってことじゃなくて、ちょっとした運命とか、他人から見たらなんでもない日常のよくあることがきっかけだったりとか。自分は加瀬のことは好きですね。どうしようもないけれども。会って飲んでみたいもんね、ああいう人。 ―――最初から最後まで全員とても個性が際立っていて、それぞれの人生を感じます。そこも作品の大きな魅力の一つですよね。  昔からの自分の癖なんですが、登場人物達が作品の中で“反省”しないんですよ。いろいろな作品を撮ってきたんですけど、一人として(作品の中で)反省して生き直す、みたいなことをしない。普通の映画というのは、“成長”を描くものなんですけれど。自分は、そこだけは本能的に逃げるんですよ。「そんなの変わらねえよ」という。変わるやつらを描くより、変わらなくて人から笑われたりもしながら、そのまま生きて散っていく奴らを描きたいんです。
佐久間結衣氏が連載前に作ったキャラクター表
――今作『初恋』は、三池監督が手がける“初”のラブストーリーでしたが、作品を撮ってみていかがでしたか?  ほんとうに生まれるんだなって。きれいなラブストーリー。レオにとっては「自分は死ぬ」って状態で出会って、彼女を仕方なく助けてやるかと思う中で、彼女のことをほんとうに放っておけなくなる。レオは居場所がないモニカを見て、自分と同じような境遇だなって思ったんでしょうね。要は、同情するんだと思うんですよ。でも次第に、彼の生きる目的が、“彼女を生かすこと”になっていくっていう。 ―――最後に、これから映画をご覧になるみなさんに一言お願いします!  とにかくピュアなものができたなって思います。それも、泥沼の中から。泥沼なやつらがいたからこそ生まれた、とびっきりピュアな…名もない雑草のような恋を観ていただければと思います。 映画『初恋』、2/28全国公開!! ぜひ劇場に足を運んで、“最高に濃密な一夜”を描いた極上エンタテインメントをお楽しみください!
<CAST>

窪田正孝 大森南朋 染谷将太 小西桜子 ベッキー
三浦貴大 藤岡麻美 顏正國 段鈞豪 矢島舞美 出合正幸
村上 淳 滝藤賢一 ベンガル 塩見三省 ・ 内野聖陽

公式HP
https://hatsukoi-movie.jp/
公式Twitter
https://twitter.com/hatsukoi2020
Ⓒ2020 「初恋」製作委員会
漫画版 単行本『初恋』上巻、現在発売中!! 原案・脚本:中村 雅 ©2020「初恋」製作委員会 漫画:佐久間結衣 映画と漫画、両方併せてお楽しみください!